目次
はじめに
デュアルコーディングについて
「デュアルコーディング(Dual Coding)」について詳しく整理しますね。
デュアルコーディングとは?
- 提唱者:アラン・パイヴィオ(Allan Paivio, 1971)
- 内容:人間の記憶には 言語情報(言葉・文章) と 非言語情報(イメージ・図像) の2つの処理システムがある。
- 両方を同時に使うことで、記憶の手がかりが増え、理解・保持が強化される。
つまり「文章だけ」や「図だけ」よりも、言葉+図を組み合わせる方が学習効率が上がるという理論です。
なぜ効果的なのか?
- 複数の経路で記憶される
- 言語経路(テキスト・音声)と視覚経路(図・イメージ)に並列で保存される。
- どちらかが思い出せなくても、もう一方から引き出せる。
- 抽象概念を具体化できる
- 例えば「DNAの二重らせん構造」を文字で説明するより、図を見せると一瞬で理解できる。
- 負荷を分散できる(認知資源の節約)
- 複雑な文章だけ読むより、図と合わせると理解がスムーズになる。
学習への応用方法
- 図解+説明
- 歴史:年表(図表)+出来事の説明文
- 理科:光合成の模式図+反応式のテキスト
- 自分で図解する
- 本文を読んで「マインドマップ」「フローチャート」「イラスト」にして再構成。
- 言葉で説明する練習
- 図やグラフを見て、それを口頭で説明する。
- 逆に、文章を図に変換してみる。
- 比喩やイメージを使う
- 「電子は原子核のまわりを回っている → 太陽のまわりを回る惑星に例える」
- 視覚的なイメージをセットで覚える。
注意点
- 情報過多にしない:図も言葉もゴチャゴチャだと逆効果(「冗長効果」)。
- 対応関係を明確にする:図の要素とテキストの説明をリンクさせる(番号・矢印など)。
- 自作が効果的:他人が作った資料を見るより、自分で組み合わせて再構成する方が定着率が高い。
👉 まとめると、デュアルコーディングは
「同じ情報を言語とイメージの両方で整理する」ことで、記憶の手がかりを増やし、理解を深める技術です。
デュアルコーディングの問題点・限界
デュアルコーディングは強力な学習技術ですが、万能ではなく、いくつか 問題点・限界 があります。研究的な視点と、実際の学習現場での落とし穴の両方から整理しますね。
1. 情報過多のリスク(Cognitive Overload)
- 言葉と図を「足し算」してしまうと、かえって脳のワーキングメモリがオーバーフローする。
- 特に初心者は、どの情報に注意を向ければいいのか分からない → 混乱する。
👉 例:授業スライドに「長文の説明+複雑な図」が同時に出てくると、どちらも中途半端になる。
2. 対応関係が不明確だと効果が出ない
- 図とテキストが一致していないと、むしろ理解を阻害する。
- 「図を見ても、どの部分が説明文に対応しているのか分からない」状態になる。
👉 例:地理の地図と長い説明文があるのに、地図に番号やラベルがなくリンクしていない。
3. 図の質に依存する
- 雑な図・複雑すぎる図は、かえって誤解を生む。
- 研究でも「不適切なビジュアルは逆効果」だと報告されている。
👉 例:理科の教科書で「イメージ図」が抽象的すぎて実際の仕組みが誤解される。
4. 作成コストが高い
- 自分で「図+言葉」に整理するには手間がかかる。
- 教師側にとっても、良質な教材を作るには時間とスキルが必要。
👉 効果は大きいが、「誰でもすぐ簡単に」というわけではない。
5. 科目や内容による効果の差
- 図で表現しにくい抽象概念(例:倫理学の議論、文学のテーマ解釈)はデュアルコーディングが難しい。
- 数学や理科のような「構造を視覚化しやすい領域」には強いが、すべての学習に万能ではない。
6. 受け身になる危険
- 図解された教材をただ「眺めるだけ」では効果が限定的。
- 本来は「自分で再構成する」ことが大事なのに、受け身の学習になりがち。
まとめ
デュアルコーディングは
✅ 記憶の手がかりを増やす強力な手法
❌ ただし「情報過多」「対応の不明確さ」「教材の質」によって逆効果になる危険もある。
だからこそ、実践では
- シンプルで対応関係が明確な図を使う
- 学習者自身が図を描く/再構成する この2点を守るのがポイントです。