目次
はじめに
記憶と暗記の違い
「記憶」と「暗記」は似ているけれど、範囲やニュアンスが違います。
1. 記憶(memory)
- 定義:過去に経験・学習したことを脳に保持し、必要に応じて取り出す働き全般。
- 広い概念で、知識・体験・感情・スキルなどを含む。
- 例:
- 子どもの頃の夏休みの思い出
- 自転車の乗り方
- 数学公式の意味や使い方
👉 「記憶」は 保存・保持・想起 という一連のプロセスを含む。
2. 暗記(rote memorization)
- 定義:主に言葉や知識を、理解よりも「繰り返し・反復」によって覚えること。
- 「覚える行為」に焦点がある。
- 例:
- 英単語を100回書いて覚える
- 歴史の年号を丸暗記する
👉 「暗記」は 記憶の一部(特に機械的に覚える行為) を指す。
3. 関係性
- 記憶 = 脳の「知識・経験のデータベース」
- 暗記 = 記憶のための「入力方法のひとつ」
つまり、
- 暗記は記憶の一部だが、記憶は暗記に限らない。
- 理解・体験・感情を伴うと「長期記憶」になりやすく、単なる暗記より定着しやすい。
🔑 まとめると:
- 記憶=脳に保存して再生する仕組み全体
- 暗記=繰り返しで情報を入れ込む技法
暗記してから記憶の順?
「暗記 → 記憶」という単純な順番のように見えますが、実際はもう少し複雑です。
1. 基本の流れ
学習心理学では、記憶は次のようなプロセスで扱われます。
- 入力(符号化・encoding)
- 見たり聞いたりした情報を脳に取り込む
- ここで「暗記の努力(繰り返し・集中)」が行われることも多い
- 保持(storage)
- 短期記憶 → 長期記憶へと整理・強化される
- 繰り返しや理解、関連づけで強化される
- 想起(retrieval)
- 必要なときに取り出す
2. 暗記と記憶の関係
- 暗記=「入力」段階での方法のひとつ たとえば、英単語を10回書くのは「符号化」を強めるための暗記行為。
- 記憶=入力+保持+想起を含む全体 だから、暗記した後に保持されなければ「記憶」にはならない。
3. 順番イメージ
- 暗記 → 記憶化 → 想起
- ただし、「理解」や「体験」を伴えば、暗記を飛ばしても強固な記憶になることが多い。
🔑 ポイント:
- 暗記は「記憶への入り口」
- 記憶は「保持と想起まで含んだシステム」
学校の勉強を何十年も記憶に残すのは現実的か?
ここは 「理論的には可能だが、現実的には難しい」 という答えになります。
1. 理論的には可能
さきほど話した通り、
- 間隔をあけた復習(spaced repetition)
- 意味付け・関連付け
- 体験や感情と結びつける を実行すれば、学校の勉強も長期記憶に残すこと自体は可能です。
👉 実際、歴史が好きで趣味として学んでいる人は、50年たっても細かい年号や人物を覚えています。
👉 数学や物理を専門に使う仕事の人は、高校の公式を今でも自在に使っています。
2. 現実的に難しい理由
- 膨大な量 学校で学ぶ内容(国数英理社…)すべてを何十年も保持するには、途方もない復習時間が必要。
- 使わない知識は忘れる 人間の脳は「生存や生活に不要な情報」を優先的に忘れるようにできている。 → 例えば「化学の元素記号」を卒業後ずっと使わなければ、多くの人は忘れてしまう。
- 動機と感情の不足 テストのために仕方なく暗記した知識は、感情や意味づけが弱いため定着しにくい。
3. 残る知識の傾向
- 実生活で繰り返し使うもの(計算、読解、語彙)
- 自分の興味や進路に関係したもの(歴史好きなら歴史、理系進学なら物理)
- 強い体験と結びついたもの(印象的な授業、成功体験、先生の言葉)
4. まとめ
- 学校の勉強すべてを「何十年も残す」のは現実的ではない。
- ただし、自分にとって重要・意味がある部分を意識的に残すことは可能。
- 脳は「使うものだけ残す」仕組みなので、将来使いたい知識は「定期的に取り出して使う」ことが大事。
現実的じゃないのなら学校の勉強の何を残しますか?
「学校の勉強のすべてを何十年も残す」のは現実的ではありませんが、“残すべき核” は存在します。
1. 学校の勉強で残したい「核」
- 基礎リテラシー(生きる力の道具)
- 読む力(読解力、文章を整理する力)
- 書く力(相手に伝える力)
- 計算力(数字を扱う基礎)
- 論理的に考える力
- 学び方の型(メタ学習)
- 覚え方(暗記・理解・復習の仕方)
- 調べ方(情報検索、整理、要約)
- 考え方(比較、因果関係、批判的思考)
- 問いの立て方
- 世界を理解するための“座標軸”
- 歴史 → 「なぜ今の社会がこうなっているか」を理解する視点
- 科学 → 「自然の仕組みをどう捉えるか」というフレーム
- 数学 → 「抽象的に考え、パターンを見抜く力」
- 感情とつながった知識
- 心を動かした本や授業
- 成功体験や「わかった!」という瞬間
- 人生観や価値観に影響した先生の言葉
2. 残さなくてもいいもの
- 「テストで一度きり使う知識」
- 「日常でも人生でも使わない公式や年号」 👉 これは無理に残さなくてもよい。必要になれば、調べ直せばよい。
3. 現実的なイメージ
学校の勉強は、全て覚えて持ち歩く「百科事典」ではなく、地図やコンパスのようなもの。
- 細かい地名やルートは忘れてもいい
- 方向感覚や地形の見方(=思考の枠組み)が残れば、一生役に立つ
✅ 結論
- 残すべきは「知識の細部」ではなく「学び方・考え方・世界を理解する視点」
- これがあれば、大人になっても新しい知識を吸収できる