目次
はじめに
「理解度の識別」は、学習において最も見落とされやすいけれど、成績や定着率に直結する要素です。いただいた 知っている/わかる/できる という区別をベースに、もう少し掘り下げて整理してみますね。
理解度の識別の3段階
1. 知っている(Know)
- 定義:情報として「聞いたことがある」「思い出せる」段階。
- 特徴:再認はできるが、再生が弱いことが多い。
例:「ピタゴラスの定理」という名前を知っている/公式を暗唱できる。 - 落とし穴:表面的な記憶に依存しており、すぐに忘れる・応用が効かない。
2. わかる(Understand)
- 定義:意味・原理を説明できる、他の知識と関連づけられる段階。
- 特徴:説明や言い換えが可能、なぜそうなるかを論理的に語れる。
例:直角三角形の辺の関係がピタゴラスの定理になる理由を説明できる。 - 落とし穴:「説明できる」と思っていても、実際には例を挙げたり自分の言葉で言い換えたりできない場合がある(=“わかったつもり”)。
3. できる(Apply/Perform)
- 定義:知識を使って問題解決や新しい状況に適用できる段階。
- 特徴:演習問題を解ける/実践でスムーズに使える/ミスが少ない。
例:初見の図形問題で自然にピタゴラスの定理を活用して解答できる。 - 落とし穴:限定的なパターンにしか対応できないと、本質的な「できる」とは言えない。
識別の実践方法
理解度を正確に見極めるには、以下のチェックが有効です。
- 知っているか確認
- 「その用語を言える?」「公式を暗唱できる?」
- → できなければ、まずは基礎知識のインプット不足。
- わかっているか確認
- 「なぜそうなるの?」「小学生に説明するとしたら?」
- → 言語化や具体例ができなければ、“わかったつもり”の可能性。
- できるか確認
- 「この新しい問題に使える?」「関連する応用問題を解ける?」
- → パターン転用ができなければ、まだ“わかる止まり”。
ポイント
- 学習者は往々にして「知っている=わかる」と誤認しやすい。
- 「わかる=できる」とも勘違いしやすい(例:授業中は理解できた気がするけどテストでは解けない)。
- この識別を明確に意識できると、勉強のどこでつまずいているかを自己診断でき、効率的に学習が進む。
理解度の識別の問題点
「理解度の識別(知っている/わかる/できる)」という整理はとても便利ですが、実際の学習支援や自己モニタリングの場面ではいくつか問題点や限界もあります。整理してみますね。
1. 段階の境界があいまい
- 「知っている」と「わかる」の線引きは個人差が大きい。
例:用語の定義を暗唱できても、本人は「わかっている」と思い込む。 - 「わかる」と「できる」も明確に切れない。テストの種類や難易度によって変動する。
2. 自己評価のバイアス
- 学習者は自分の理解を正しく判断できないことが多い(メタ認知の限界)。
- 過信 → 「授業ではわかったからできるはず」と思うが、実際は解けない。
- 過小評価 → 「説明はできないけど、実は理解している」ケースもある。
- 特に初心者ほど「知っている=できる」と錯覚しやすい。
3. 実践状況による揺らぎ
- 「できる」は状況依存的。
- 家で落ち着いていればできるが、試験や緊張下ではできない。
- 一定のパターンではできても、応用や複雑な条件下では崩れる。
- 結果として「本当にできるか」を判断するのが難しい。
4. 三段階モデルの単純化
- 学習の実態はもっと多層的。
- 「理解しているけど、表現できない」
- 「演習はできるけど、転用できない」
- 「知識はあるが、瞬発的には出てこない」
- 実際の教育心理学では、ブルームのタキソノミー(記憶→理解→応用→分析→評価→創造)のように6段階で捉える方が細かい。
5. 確認方法の難しさ
- 「わかる」をどうテストするか? → 説明させても暗記のまま繰り返しているだけかもしれない。
- 「できる」をどう評価するか? → 問題演習を通しても、パターンにハマっているだけの可能性がある。
- 適切なチェック課題やフィードバックがなければ、誤診につながる。
まとめ
「知っている/わかる/できる」の区分は 学習者の自己認識を促す入り口 として有効ですが、
- 境界の曖昧さ
- 自己評価の誤差
- 応用力や状況依存性の見落とし
- 確認方法の難しさ
といった問題があります。
そのため、この枠組みはあくまで 簡易的なメタ認知ツール として用い、実際には 演習・説明・応用課題を組み合わせた多面的なチェック が必要になります。