目次
はじめに
スキーマ形成について
「スキーマ形成」は、新しく学んだ知識を、すでに持っている知識の枠組みに当てはめて理解・記憶する技術です。
スキーマとは?
- 心の中にある「知識のひな形」や「思考の枠組み」。
- 例えるなら「フォルダ」や「テンプレート」のようなもの。 → 新しい情報は、既存のフォルダに入れたり、必要なら新しいフォルダを作ったりして整理される。
スキーマ形成の流れ
- 既存スキーマを活性化する
- 「このテーマは何と似ている?」「前に学んだあれに近い?」と考える。
- 例:歴史で「鎌倉幕府」を学ぶとき → 既に知っている「平安時代との違い」というスキーマを使う。
- 新しい情報を位置づける
- 新知識を「どのフォルダに入れるべきか」を決める。
- 例:理科で「光合成」を学ぶとき → 「植物の働き」というスキーマに追加。
- スキーマを拡張・修正する
- 新しい情報がフォルダに収まりきらなければ、フォルダ自体をアップデートする。
- 例:算数で「分数の割り算」を学ぶとき → 「割り算」のスキーマに「逆数をかける」という新しいルールを追加。
スキーマ形成を助ける具体的技術
- 比較する:似ている点・違う点を表で整理。
- 例をつなげる:身近な例と学習内容を関連づける。
- 自己説明:自分の言葉で「これは○○の一部」「これは△△と似ている」と語る。
- 図解する:ツリー図や表に落とし込む。
メリット
- 点の知識が線でつながり、網の目のように思い出しやすくなる。
- 応用力がつく(似た状況に出会ったときに「これは前のスキーマと同じパターンだ」と気づける)。
- 無秩序な暗記ではなく「意味のある記憶」になる。
👉 ここまでまとめると、スキーマ形成は「知識をフォルダ分けして、必要に応じてフォルダを進化させていく作業」と言えます。
スキーマ形成の問題点
スキーマ形成は学習にとても有効ですが、万能ではなく「落とし穴」や「問題点」もいくつか指摘されています。整理すると次のようになります。
① 誤ったスキーマができる(誤概念)
- 既存の知識に無理やり当てはめると、誤解したまま記憶してしまう。
- 例:
- 「原子は太陽系みたいに電子が惑星のように回っている」→ 便利なイメージだが厳密には誤り。
- 数学で「割り算はいつも数を小さくする」→ 分数割り算に当てはめると混乱。
② 固定観念・硬直化
- スキーマが強すぎると、新しい情報を受け入れにくくなる。
- 「これは自分の知っているパターンと同じだ」と決めつけて誤解したり、違いを見落としたりする。
- → これを「認知的固定化」や「オーバージェネラライゼーション」と呼ぶ。
③ 既存知識に依存しすぎる
- 「既に持っているスキーマ」が貧弱だと、新知識をうまく組み込めない。
- 例:理科の「電流」を学ぶときに、電気回路の基礎スキーマがなければ理解が進まない。
- 学力差が「背景知識の差」として現れるのはこのため。
④ 誤転用(誤用)
- スキーマが似すぎていると、誤った場面で適用してしまう。
- 例:
- 「英語の過去形は“ed”をつける」スキーマを不規則動詞に適用 → goed など誤答。
- 物理の「力=運動を起こすもの」スキーマを慣性に当てはめて混乱。
⑤ 新規性が埋もれる
- 新しい知識を「知っていること」と似たフォルダに分類してしまうため、独自性や重要な違いを見落とす。
- 特にクリエイティブ思考では「スキーマの枠から出られない」リスクになる。
対策
- 誤概念チェック:先生や教材の正確なフィードバックで、誤ったスキーマを矯正。
- 差異に注目する訓練:似ている点だけでなく「どこが違うか」を意識する。
- メタ認知的確認:「この理解は本当に正しい?」と立ち止まる習慣。
- 多様な例に触れる:スキーマが偏らないよう、例題や応用問題で幅を広げる。
つまり、スキーマ形成は「学習を加速させるエンジン」ですが、燃料を誤ると「誤解を強化する装置」にもなってしまう、という両義性を持っています。